ベルイマン生誕100年映画祭

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ベルイマンを知らないあなたもベルイマンを知っている

 あなたはもしかすると、イングマール・ベルイマンの映画はいちども観たことがないかもしれません。でも、あなたが映画ファンなら、知らないうちにベルイマンの影をずっと見てきたはずです。誰もが知っているあの映画この映画が、ベルイマンから生まれたものだからです。

 たとえば、デヴィッド・フィンチャーの『ファイト・クラブ』。ブラッド・ピットがカメラに向かって消費社会への怒りを吐き出すと、あまりの怒りでフィルムが映写機のスプロケットから外れるという衝撃的なシーンがあります。あれは、ベルイマンの『仮面/ペルソナ』という映画で、ヒロインの怒りでフィルムが映写機に引っかかって炎上するシーンに影響されています。さらに『ファイト・クラブ』ではエンディングにペニスの写真が1コマだけ、サブリミナルのように挿入されていますが、同じことをベルイマンは『仮面/ペルソナ』の冒頭でやっているのです。その他、ドゥニ・ヴィルヌーヴの『複製された男』、スピルバーグの『ポルターガイスト』、デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』などに、ベルイマンの『仮面/ペルソナ』を模倣したシーンがあります。

 マーク・ウェブの『(500)日のサマー』、ジョン・マクティアナンの『ラスト・アクション・ヒーロー』、リンチの『ロスト・ハイウェイ』が、ベルイマンの『第七の封印』で主人公が死神と出会う場面を引用しています。 ウィリアム・フリードキンの『エクソシスト』は、悪魔に取りつかれた少女の服装、部屋、十字架を股間に突き刺すシーンが、ベルイマンの『叫びとささやき』を元にしています。ミヒャエル・ハネケの『ピアニスト』、ラース・フォン・トリアーの『アンチ・クライスト』にも、『叫びとささやき』の影響をはっきり観ることができます。
 アレハンドロ・G・イニャリトゥの『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』、ティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』は、ベルイマンの『野いちご』なしにはありませんでした。

 ウェス・クレイブンの『鮮血の美学』は、ベルイマンの『処女の泉』のスプラッター版として作られました。  アンドレイ・タルコフスキー、ウディ・アレン、ロバート・アルトマン、ブライアン・デ・パルマ、ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、フェデリコ・フェリーニ、スタンリー・キューブリック……、みんなベルイマンに倣った映画を作っています。

 それはベルイマンが古典で基本だからではありません。『仮面/ペルソナ』の炎上するフィルムに代表されるように実験的で型破りでした。いわばロックにとってのビートルズが、世界の映画にとってのベルイマンだといえます。

 「ベルイマンのテーマは『神の沈黙』である」と、よく言われます。なにやら難しく偉大な芸術家の大先生のように聞こえますが、そうではないと思います。ベルイマン本人はコンプレックスと欲望に勝てないダメな自分を映画のなかで赤裸々にさらけ出してきた人でした。厳格な牧師の息子に生まれ、母を虐待する父を憎み、それが神への不信になりました。また、子どもの頃から性に対する興味が強く、監督になると、主演女優と次から次に恋愛関係になり、次から次に愛した女性を傷つけ、その彼女たちを映画で共演させ、自分史をそのままフィルムに収めてきたのです。

 革命的で、掟破りで、ダメ人間で、正直なベルイマン。その作品は今も新鮮さを失いません。この機会にぜひ、ご覧ください。

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