ローサのぬくもり


INTRODUCTION
見事な俳優たちは言葉を用いずに、雄弁に語る視線によって感情と苦悩を伝える。胸をつまらせ心を打つことを強調しておくが、それでもこの映画は希望と楽天性に満ちている。間違いなく栄光に輝いたこの初の長篇は、まさに観に行く価値がある。……パリ・スコープ誌

1999年、スペイン映画界に新たな衝撃が渦巻いた。34歳の新人監督が発表した一本の長篇デビュー作が、いきなりベルリン映画祭に選出され観客賞と国際批評家連盟賞を受賞。国内で公開されるや観客の温かい感動と涙を誘って、異例の大ロングランヒットを記録したのだ。
衝撃をもたらした、その作品は『ローサのぬくもり』。うわさはたちまち世界に発信され、1999年〜2000年にかけて、各国の映画祭から招待が殺到。日本でも第12回東京国際映画祭で「アローン 〜ひとり〜」の仮タイトルで上映され、見事、最優秀男優賞と最優秀女優賞の二冠を獲得。これまでに世界25か国で公開されている。また、スペインのアカデミー賞といわれるゴヤ賞では、『オール・アバウト・マイ・マザー』と賞を競い、監督賞、脚本賞など主要5部門で『オール〜』を破って受賞という快挙を成し遂げた。
『ローサのぬ くもり』が静かに語りかけるのは、いつの時代も変わらぬ気どりのない、本音をぶつけあえる家族愛の姿。しかし本作はそれだけにとどまらず、旧態依然とした形だけの家族にとらわれない新しい家族(人間関係)のあり方をも提示して、新鮮な希望の光を観るものすべてに与える。それが冒頭の批評にも表われているといえるだろう。
『オール・アバウト・マイ・マザー』の世界的なヒットが記憶に新しいスペイン映画界は、いま、フリオ・メデム監督、アレハンドロ・アメナバル監督ら若手監督の台頭で、新たな隆盛期を迎えている。本作の監督ベニト・サンブラノも、この『ローサのぬ くもり』で確実に世界の注目監督の地位に登り詰めたといえよう。また、ベテランの舞台女優ながら、今回の映画では初の大役を得た母役のマリア・ガリアナ、映画デビューとなる娘マリア役のアナ・フェルナンデス、老人役のカルロス・アルバレス=ノボアの三人は、揃ってゴヤ賞で助演女優賞、新人女優賞、新人男優賞を受賞。

アナ・フェルナンデスの米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品“You're the One”への出演をはじめとして、オファーが相次いでいる状況だ。
誰でも、現代社会の忙しさのなかで「人間はひとりぼっち」という淋しさを感じる瞬間があるはず……そんな時、心の渇きを癒し、ふと、あなたが忘れている大切な隣人の存在を思い出させてくれる映画。それが『ローサのぬくもり』だ。


1999年/スペイン/98分/35ミリ/1‘85ヴィスタ/ドルビー/原題:SOLAS/日本語字幕 松岡葉子



STORY
スペインの大都市。暴力的な父の元を離れるため、田舎での生活を捨てて一人で暮らすマリア35歳。父親に進学を反対されたためろくな仕事はない。今は掃除婦をしている。付き合う男性も、大嫌いな父親のような人ばかり。昼間からバ−に入り浸り、半ばアルコ−ル中毒となっている。しかも、愛してもいない相手の子供を身ごもってしまった。
ある日、その父親が倒れ、マリアの住む街の病院に入院した。彼の介護をするため、母親も田舎から出て来てマリアのアパ−トに滞在する。
母ロ−サは娘のことが気掛かりだが、娘はそんな母を受け入れようとしない。ローサは娘が留守の間に、部屋を片付け、料理をする。少しでも潤いのある生活ができるよう、鉢植えの花を買う。時間があれば編み物をしている。

ロ−サは買い物に出かけたス−パ−で、アパ−トの階下に住む老人と出会う。老人は妻に先立たれ、愛犬アキレスだけを話相手に毎日を送っていた。鍋をこげ付かせた老人をみかね、料理を作り、具合の悪くなった彼の面 倒をみたりと、いつしか、ロ−サと老人の間に友情のような愛情が育まれていく。
ほどなくマリアの父親は退院。ロ−サも一緒に田舎に帰ることになった。ロ−サは老人に別 れを告げる。字の読めないロ−サは手紙を書く事ができない。娘マリアに少しばかりのお金とマリアが子供の頃一緒に写 した写真を添えて田舎へ帰っていく。
一人になったマリアを老人が訪ねる。ロ−サが二人を結びつけたのか。二人はその晩、食事をし酒を飲みカ−ド遊びをする。酔ったマリアはお腹の子供のことを口にする。産みなさい、と言う老人。産みたいけれど、産めないと言うマリア。
そして、激論の末に夜明け前に二人が出した答えは・・・。



STAFF & CAST
ベニト・サンブラノ (監督・脚本)
BENITO ZAMBRANO

1965年セビリャのレブリヤ生まれ。キューバはハバナのサン・フアン・デ・ロス・バニョス国際映画学校で脚本と演出を学ぶ。95年には中篇「 El encanto de la luna llena (満月の魅力)」を監督し、スイスのフライブルク映画祭、スペインのフエスカ映画祭、オーストラリアのシドニー近代美術館の特集上映「ラティーナII」などで上映され好評を博した。これで認められ、今回の始めての長篇映画『ローサの』に取り組み、完成するや99年ベルリン映画祭のパノラマ部門の正式出品作に選定され、上映されるや絶賛され、国際批評家連盟賞、観客賞を受賞。以来、カンヌを始めとする各国の映画祭に招かれ、東京国際映画祭でも高く評価され、男優主演賞と女優主演賞をダブル受賞。2000年にはスペインのアカデミー賞であるゴヤ賞を『オール・アバウト・マイ・マザー』と競い、主要五部門を受賞した。今後の楽しみな正統派の大器の登場である。
現在は、TVシリーズ「PADRE CORAJE」の演出などテレビの仕事でも活躍、また新作『HABANA BLUES』の準備に追われている。

アナ・フェルナンデス(マリア)
ANA FERNANDEZ (Maria)

セビリャ生まれ。17歳で芸能界デビュー。TVのニュース番組の「お天気お姉さん」をしたりセビリャ万博でコンパニオンの仕事をしながら舞台演劇を続ける。映画は、ミゲル・ビベス監督の中篇「Tesoro」に続いて、98年にガリアナも出演したアイタナ・サンチェス=ヒヨン主演によるガルシア・ロルカの舞台劇の映画化「Yerma」で長篇映画デビュー。そして本作の初主演で絶賛されて数々の栄誉を獲得。以来、次々にオファーを得、2000年はパトリシア・フェレイラ監督作「Se quien eres」のヒロインに続いて、警察もののTVシリーズ「Policias, en el corazon de la calle」に主演し、更には2001年アカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表作となったホセ・ルイス・ガルシ監督の注目作「You're the One (Una historia de entonces)」にも出演するなど、大活躍している。『ローサのぬ くもり』は私に映画への扉を開いてくれたと言っても過言ではありません、と喜びを語っている。

マリア・ガリアナ (母)
MARIA GALIANA (Madre)

1935年セビリャ生まれ。大学では教師になる夢の為に文系を専攻。61年に結婚、64年に高校の美術史の教師となる。以来36年間大学教授の夫と共に5人の子供を育て上げ、教壇にも立ち続ける。
16年前、自主映画の制作をしていた友人に誘われフランシスコ・ペラレスの「Madre in Japan」(85)に出演、これを見たホセ・ルイス・ガルシア・サンチェスが「Pasodoble」(88)に起用したことからこの世界に入る。以後「El Seductor」「Suspiros de Espana」(95)、フェルナンド・トルエバの大ヒット作『ベル・エポック』(92)、95年ビセンテ・アランダの「リベルタリアス/自由への道」[BS題]、ハイメ・デ・アルミニャンの「El Palomo cojo」(95)、ロルカ劇を映画化したピラール・タボラの「Yerma」(98)のドロレス役といった作品に登場。そして今回の初の大役で名演を見せ、99年東京国際映画祭の優秀女優賞を始め、ゴヤ賞などに輝いた。2000年は、映画にも出演すると共に、ロルカの命日にオマージュとして詩の朗読会を開き、秋のマドリード国際演劇祭で上演されたホルヘ・センプルン新脚色《トロイ人》にセネカ役で出演して絶賛された。受賞後も教師は続けていたが2000年春、定年を待たずに高校を依願退職し女優に専念することを決めた。今まさに第二の「美しき老い」という人生を謳歌し始めたばかり、と希望に燃えている。

カルロス・アルバレス=ノボア (階下の老人)
CARLOS ALVAREZ-NOVOA(Vecino)

セビリャ生まれ。地元の劇団で舞台俳優として長らく活動し、ペドロ・アルバレス・オソリオ作《El hombre que muri en la guerra (戦争で失った影)》、オマール・グラッソ作《 El Principe Azul (プリンス・チャーミング)》、ハビエル・アルバレス・オソリオ作《El veneno del teatro 》といった現代劇などに多数出演する。98年今回の映画の出演依頼を受け、始めて映画に出演。感動的な名演を披露し、99年東京国際映画祭の優秀男優賞を受賞。翌年のゴヤ賞には高齢ながら新人男優賞の候補となり、見事に受賞して話題を集めた。また、2000年はヒッチハイクで旅する男を描いた「Carmelo y yo (カルメロとあなた)」に主人公の父役で出演するなど、映画界からもオファーが舞い込むようになり、新たなキャリアを築き始めている。

アキレス
本名:タルコ・デ・プラドンド

1993年9月29日、訓練犬調教師ラファエル・カサドの調教場に生まれる。 カサド氏のもとでスポーツ犬として調教され、上級のテストでも成績はトップクラス。 スポーツ犬コースを修めた後、ある銀行のテレビ・スポットに出演、その演技が認められ映画・テレビの出演依頼が殺到する。監督も驚く程の演技力をもつ。



REVIEWS & COMMENT
毛糸のぬくもりは心のぬくもり
広瀬光治
(ニットデザイナー)

おかあさんは偉大です。人や世の中を優しく包むハートが、画面 を通して伝わってきました。幸せってお金があることでも、よい家柄に生まれることでもないのです。素晴らしいおかあさんに恵まれることが一番でしょう。
母と子の絆の弱さが心配されるなか、人に対する思いやりをもう一度考えさせられる映画でした。他人のことなのに精一杯、できる限りのことをする母ローサ。その心を映すように娘マリアのことを思う老人。今の人が忘れかけている“思いやりの心”。そんな思いやりが、少しの時間も惜しんで動かす指のニットに表れています。“優しい人になってね”と言っているようでした。殺伐とした世の中で親と子供、一緒に観てほしい作品ですね。




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