INTRODUCTION x イントロ

完全犯罪のはずだった。エレベーターが止まるまでは…。

大企業社長の側近として、その手腕を発揮していたジュリアン(モーリス・ロネ)。しかし彼は同時に、社長夫人フロランス(ジャンヌ・モロー)と不倫関係にもあった。
情事の果て、社長を自殺に見せかけて殺すことを画策したジュリアンは、それを実行に移す。完全犯罪を成し遂げたかに思えたが、証拠隠滅のため再び犯行現場に戻る途中のエレベーター内に運悪く閉じこめられてしまう。
一方、ジュリアンの車を盗んで、パリの街へと繰り出した花屋の売り子ベロニク(ヨリ・ベルタン)とその恋人ルイ(ジョルジュ・プージュリー)も予期せぬ殺人を犯してしまう。
十数階の高所で突然停止してしまったエレベーター内で、閉鎖空間の恐怖と焦燥感に見舞われる男。恋人に対する信頼と懐疑を抱えながら、行く当てもなく街を彷徨う女。そして、自動車道を疾走する若者たち。4人は、パリの夜の深淵へと引き込まれて行く…。

 

ヌーヴェルヴァーグの先駆者ルイ・マル監督、衝撃のデビュー作

ルイ・マル。1997年、63歳で生涯を終えるまで、数々の名作を世に残したフランス映画界の巨匠。その長編監督単独デビューは、文字通り衝撃的だった。当時わずか25歳の若さで作り上げた本作は、その完成度、洗練度の高さが1958年のフランス公開時に多くの批評家から絶賛され、その年の最も優れたフランス映画に贈られるルイ・デリュック賞を受賞するという快挙を成し遂げた。
原作はノエル・カレフのサスペンス小説。撮影は『大人は判ってくれない』『太陽がいっぱい』のアンリ・ドカエ。そして、映像により深みを与えているのが、"モダンジャズの帝王"と称されるマイルス・デイビスの音楽。即興セッションで仕上げた演奏は、ジャズファンの間のみならず、映画のサウンドトラックの名盤として、後世に語り継がれている。
映画史の一大事件となったヌーヴェルヴァーグのきっかけを作ったと言われる本作。ルイ・マルの研ぎ澄まされた映像感覚と冷徹さを含んだ乾いた演出、息もつかせぬ物語展開は、半世紀以上を経た今も観る者の心をとらえて離さない。