最初の人間

ストーリー



 1957年夏。40代のジャック・コルムリはブルターニュのサン・ブリューの仏軍墓地に立つ父の墓の前で静かに黙想していた。彼は父を知らない。墓石を見て、父が死んだ年齢を、自分がすでに越えていることに気付く。
数日後、ジャックは母を訪ねるため、数年ぶりにアルジェリアへと向かう。街は戦下にある。空港に着くと、フランスによるアルジェリアの植民地化に疑問を呈するジャックと同じ考えを持つ学生が大学での討論会へ招待しようと、彼を出迎えた。
「帰れ、コルムリ!我々には裏切り者など無用だ!」
大学での討論会は、仏領アルジェリアを進める保守派と革新派が入り交じり、熱気を帯びていた。ジャックが演台に立ち、アラブ人とフランス人の共存を提言すると、過激派が講堂に押し入って討論会は混乱に陥った。
 翌日、ジャックは本来の目的である母に会う。母は、強権的な祖母の下、エティエンヌ叔父と共に暮らしていた、同じアパートに今でも住んでいた。久方ぶりの我が家に、ジャックは、父の写真を見つめながら、自分の幼少の頃に思いを巡らせた。
友達と共に遊び、サッカーの試合に興じた日々のこと・・・。祖母の折檻に恐怖した日々の事こと・・・。高校への入学の道を開いてくれたベルナール先生のことを・・・。
 第一次世界大戦で父を亡くした小学生のジャックは、母とその弟のエディエンヌ、そして父方の祖母と共に暮らしていた。勉学に明るく、担任教師のベルナール先生からもそのおスミ付をもらっていたジャックは、中学への進学を希望していたが、祖母の反対により、エディエンヌとともに新聞工場で働いていた。そんな状況を打開してくれたのが、ベルナール先生だった。祖母に直談判してくれ、無教養な家庭に生まれた自分が思いもよらなかった人生へと送り出してくれたのだ。
 あくる日、ジャックはアラブ人居住区に足を運び、小学校時代の級友、ハムッドに会う。ハムッドはその昔、ジャックがフランス人であるというだけで、ケンカをふっかけ、蔑んでいた人物だ。ハムッドは、「我々に友情はなかった」と当時を振り返りつつも、息子アジズが過激派のメンバーであるとして不当逮捕されたので、その無実をはらしてくれるようジャックに嘆願する。政府機関に顔がきくジャックは、早速アジズを釈放すべく上層部に掛け合うが、アジズは断首刑に処されてしまう。
 アルジェリアの大地に生まれながら敵同士に変容してしまったアルジェリア人とヨーロッパ人。ジャックはその和解と共存の為に、懊悩する。そして、アジズの死を受けたジャックは、ラジオを通して皆に呼びかけるのだった。

原作 アルベール・カミュ

1913年11月7日、アルジェリア生まれ。フランス人入植者の父が幼時に戦死。以後、母とともにアルジェ市内のベルクール地区にある母の実家に身を寄せる。この家には、祖母のほかに叔父が暮らしていたが、聴覚障害のあった母親を含め、読み書きができるものはいなかったという。カミュは貧しくはあったが地中海の自然に恵まれた子供時代を送る。
1918年に公立小学校に入学。貧しい母の実家の下、カミュはもともと高等学校へ進学する希望はなかったが、この学校の教諭ルイ=ジェルマンはカミュの才能を見抜き、家族の説得にあたる。そのかいあってカミュは、1924年に、奨学金を受けながらアルジェの高等中学校リセ=ビジョーに進学する。
リセ時代のカミュはサッカーに打ち込み、ときにアルバイトなどしながらも優秀な成績を取っている。またこの時、リセの教員であったジャン・グルニエに出会い、その影響で文学に目覚める。
1932年、アルジェ大学文学部に入学。在学中に結婚するが、その後離婚。大学卒業後の1937年には処女作となるエッセイ集「裏と表」を出版。翌年、「アルジェ・レピュブリカン」の新聞記者となり、第2次大戦時には反戦記事を書き活躍。またアマチュア劇団の活動に情熱を注ぐ。1942年「異邦人」が絶賛され、「カリギュラ」「ペスト」等で地位を固めるが、1951年「反抗的人間」を巡りサルトルと論争し、次第に孤立。以後、持病の肺病と闘いつつ、「転落」等を発表。1957年に弱冠43歳でノーベル文学賞受賞。その後、カミュはプロヴァンス地方の田園地帯ルールマランに居を構え、しばしばパリとの間を往復する生活を送る。1960交通事故で死亡。そこに未完の自伝的小説『最初の人間』が遺稿として残されていた。

小説

1942年 「異邦人」
1947年 「ペスト」
1956年 「転落」
1957年 「追放と王国」(短編集)
1971年 「幸福な死」 - 「異邦人」の初期草稿。カミュの死後に刊行。
1994年 「最初の人間」 - 1950年代半ばに構想し、1959年から執筆を開始。
翌1960年にカミュが交通事故により早世したため未完に終わった遺作。

戯曲

1936年 「アストゥリアスの反乱」 - 3人の友人との合作
1944年 「カリギュラ」
1944年 「誤解」
1948年 「戒厳令」
1949年 「正義の人びと」
1953年 「十字架への献身」 -
スペインの作家ペドロ・カルデロン・デ・ラ・バルカの神秘劇の翻訳
1953年 「精霊たち」 -
16世紀の劇作家ピエール・ドゥ・ラリヴェイ作のコメディア・デラルテの翻案
1955年 「ある臨床例」 - ディーノ・ブッツァーティ作の小説の翻案
1956年 「尼僧への鎮魂歌」 - ウィリアム・フォークナー作の小説の翻案
1957年 「オルメドの騎士」 -
スペインの劇作家ローペ・デ・ベーガ作の戯曲の翻訳
1959年 「悪霊」 - ドストエフスキーの小説の翻案

エッセイ

1937年 「裏と表」
1939年 「結婚」
1942年 「シーシュポスの神話」
1944年 「ドイツ人の友への手紙」
1951年 「反抗的人間」
1954年 「夏」
1957年 「ギロチン」

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